EMAクロスは勝てるのか|27通り+6戦略×7銘柄で総当たり検証した結果

本記事は自作プログラムによる検証記録であり、特定の手法・金融商品の推奨ではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。

「EMA(指数移動平均線)のクロスで売買する」——おそらく世界で最も有名なトレード手法です。本やブログでは「ゴールデンクロスで買い」と当たり前のように書かれていますが、実際に機械的に売買したら勝てるのか?

気になったので、EAを自作して総当たりで検証しました。結論を先に書くと、27通り中25通りが赤字。ただし全滅ではなく、生き残った設定には共通のパターンがありました。順に記録します。

検証①:EMAクロスEAを27通り総当たり

  • 対象:ゴールド(USD建て)、2026年1月〜6月、0.10ロット固定、証拠金1万ドル
  • 組み合わせ:時間足 {M5, M15, H1} × EMA期間 {20, 50, 100} × TP/SL {50/200, 100/150, 200/100} = 27通り

結果:プラスは27通り中わずか2通り。しかもH1+EMA100の2つが+80ドル前後(PF1.08〜1.11)という誤差レベルで、最悪の組み合わせ(M5+EMA20+TP50/SL200)は−9,970ドル、証拠金がほぼ消えました

ただし全体を眺めると、きれいな単調パターンが出ました。

パターン 傾向
時間足 M5が最悪 → H1が最善(短い足ほどダマシとスプレッド負け)
EMA期間 長いほどマシ(EMA20 < 50 < 100)
TP/SL比 「TP50/SL200(小さく勝って大きく負ける)」が勝率約70%なのに最下位

最後の行が重要です。勝率70%と聞くと優秀に見えますが、1回の負けが利益4回分を消す構造なら簡単に破綻します。勝率は戦略の良し悪しをほぼ何も語らない——これが検証①の最大の学びでした。

検証②:では何なら勝てるのか——6戦略×7銘柄の戦略ラボ

EMAクロス単体の敗北を受けて、範囲を広げました。単純戦略6種(EMAクロス、2本EMA、MACD、ドンチャン、RSI逆張り、ボリンジャー逆張り)を7銘柄×H1/H4、2023〜2026年、SL/TPはATR(ボラティリティ)基準で統一して比較しました。

わかったこと:

  1. 「勝てる戦略」は単体では存在しない。「戦略×銘柄×相場つき」の組み合わせで決まる
  2. トレンド系(EMA/MACD/ドンチャン)は強トレンド銘柄(ゴールド系)でだけ勝つが、ドローダウンが大きい
  3. 逆張り系(RSI/ボリンジャー)はレンジ気味の銘柄(GBPJPYのH4など)でだけ勝つ
  4. EURUSDとCADCHFはどの戦略でも勝てなかった
  5. 最も安定していたのは2本EMAクロス(DUAL_EMA)——派手に勝たないが、ドローダウンの中央値が最小

最良の組み合わせは「DUAL_EMA 短期12/長期48、SL=2×ATR/TP=3×ATR、EURJPY」でした(H4でPF1.55/DD4%、H1でPF1.11/DD7%)。周辺56パラメータの頑健性チェックでも59%がプラスで、一貫した「勝てる尾根」が存在します。ただし中央値はPF1.04——低リスク・低リターンの「わずかなエッジ」です。

検証③:その「最良設定」は未来でも最良か(一番大事な話)

ここからが本題です。検証②の結果は過去データへの当てはめに過ぎません。そこで期間を2つに割りました:2020〜2023年で「最適な設定」を選び、2024〜2026年でその設定が通用するかを見る(IS/OOS検証)。16パラメータで実施した結果がこの散布図です。

学習期間の損益と検証期間の損益の散布図。相関がほぼなく、過去の最適設定が未来に通用しないことを示す
横軸=学習期間(2020-2023)の損益、縦軸=検証期間(2024-2026)の損益。右上に固まるはずが、バラバラに散っている

学習期間と検証期間の損益の相関係数はH1で+0.14、H4では−0.22(マイナス!)。つまり「過去3年で最も稼いだ設定」を選ぶことには、未来の成績に対する予測力がほぼゼロ、H4に至っては逆効果でした。H4では学習期間にプラスだった設定が16中3つだったのに、検証期間では10に増える「地合いの反転」も起きています。

教訓:パラメータ最適化は未来に汎化しない。バックテストで一番良かった設定を選ぶ行為は、ノイズへの過剰適合(カーブフィッティング)である可能性が高い——前回の記事で書いた「バックテストの罠」の、これが最も深い階層です。

興味深いのは、12/48という設定だけは4つの区間すべて(学習/検証×H1/H4)でプラスだったこと(PF1.05〜1.56)。ただしこれは最適化で見つけた値ではなく、探索範囲の中央の「素直な値」が偶然でなく生き残った、という位置づけです。

まとめ:この検証から持ち帰るもの

  1. 単純なEMAクロスは、そのままではほぼ勝てない(27通り中25敗)
  2. 勝率の高さは収益性を保証しない(勝率70%で最下位が起きる)
  3. 戦略は銘柄と相場つきとセットでしか評価できない
  4. 「バックテスト最強設定」に予測力はない。生き残るのは端の尖った設定ではなく、中央の素直な設定
  5. 見つかったエッジ(DUAL_EMA 12/48 EURJPY)も期待値はトントン〜微プラス。現在デモフォワード前の段階で、実運用の成績はまた別の話

「この設定なら勝てます」で終わる記事にできれば気持ちいいのですが、データがそう言っていないので、このまま公開します。フォワードテストの結果が出たら続報を書きます。

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